由布岳 1584m 1997年6月5日

湯布院の田園から見上げる由布岳
湯布院から見上げる由布岳


 海外在住の日本人に共通な思い、それは、「温泉行きたい!」
「一時帰国で温泉行って来ましたよ」 「いいですね〜」   「帰国したら温泉に行くんです」 「いいですね〜」 こういう会話がしょっちゅう聞かれる。

そうやって滞米中から話に出ていた湯布院温泉に、帰国してほぼ1年たった頃やっと行けることになった。延ばし延ばしにしていた夫の勤続10年の休暇。「ついでに由布岳にも登ってみる?」と誘い水を向けてみると、あっさりと「ええよ」の返事。

宇品港から別府港までは夜行フェリーに乗る。湯布院では2泊してのんびりし、山にはお天気をみはからって登ることに決定。


正面登山口付近から見上げる由布岳
最初の2日間は天候がいまひとつ。広島に帰る日になって、やっと朝から晴天となり、正面登山口へ。

登山口からしばらくは、草原の中の道。樹林帯に入る手前で、ふと右手を見ると、遠くの岩の上に犬が一匹。逆光で白い毛が光って、後光がさしているように見える。そのときは「あれ〜、こんなところに犬がいるよ」と言っただけで、それ以上気にとめていなかったのだけど・・・。



登山口を入ったところ


樹林帯に入ると登山道は登りにかかる。途中で谷を越えて更に登ると、目の前が開けて合野越に至る。南側の、緑に覆われた端正な姿は飯盛ガ城。

登山道から見下ろす湯布院
合野越から道は再び樹林帯。つづら折れに高度を上げて行く。見下ろせば湯布院の街。足元には岩がゴロゴロし始める。

登山道から湯布院を見下ろす


ガイド犬? ちょうど樹林帯を出てガラガラ道が始まる頃、ふと振り返ると、トコトコと駆けて来る白いものが・・・。 (私)「あれ〜、おまえ、どこから来たの?」  (夫)「下で見たあの犬じゃないか?」

下で私たちが通り過ぎたときには、のんびりと日なたぼっこを決め込んで動く気配はなかったのに、いつの間にこんなところまで登ってきたのやら。ケモノ道でもあるのかねー、と話しながら登っているうちにも、犬はつかず離れず一緒に歩いている。
どうも、ワタシがガイド犬です


そのうち、ガレ場の勾配が厳しくなってきて、どこに足を置けばいいか一瞬迷う箇所が出てき始めた。そのたびに犬はササッと私の横をすり抜けてその箇所を登り、登ったところでピタッと止まり振り返ってじ〜っと私を見る。まるで、「ホラホラ、こっちだよ」と言っているみたい。もしかして、コイツはガイド犬?

そう気がつくと、なんだかその犬がかわいくてたまらない。犬の方では、「頼りなさそうな登山者やけん、今日はこん人たちをガイドしよっ!」とでも決めたのか、他の登山者には目もくれない。マタエの分岐で私たちが右へ向かうと、やっぱり後になり先になりして、結局東峰まで一緒に登ってくれた。


東峰山頂 山頂で、「アンタも疲れたでしょ」と水をやろうとすると、「えっ、いただいても、いいんですか?」と(言ったわけではないが)、ためらいがちに私の手から水を飲む。謙虚な姿勢、ますますカワイイやつ。景色を見るより、犬との交流に時間を費やした山頂だった。

西峰にも行ってみたいけど、フェリーの時間が迫る。「それに西峰にはクサリ場があるから時間かかるかも」 「じゃあ、下りるか」 ということで、下山を決定。

東峰山頂


犬と一緒に東峰からマタエまで下ると、大勢のオバサマ方が休憩中だった。太った性格の悪そうな人(ハイ、偏見です)が、こちらを見てギャーギャー騒いでいる。よく聞いてみると、「もう!非常識ねー。犬が好きな人ばかりじゃないんだから、連れて来ないでよっ!」と、たいそうな剣幕。どうやら、私たちの飼い犬だと勘違いして、見当違いの文句を言っているらしい。山に犬を連れて来ることには賛否両論あるけれど、そんな感情的な言い方ってないでしょう。心に余裕のないオバサン、かわいそう。

さて、「このままふもとまで一緒に下りたら、別れるのがつらいな〜」と思いながら下山を続け、樹林帯に入った頃、ふと気づくと、犬がいない。まるで、ガレ場が終わるまで私たちを見届けたらそれで仕事は終わり、とでもいうように、忽然と消えてしまった。よく考えてみると、登りで突然現れたのもこのあたり。「やっぱりケモノ道があるんじゃないか」と夫が言う。

下山後すぐ別府港に向かう。フェリーの時間にちょうど間にあった。「九重には平治号っていうガイド犬がいたんだって、由布岳のガイド犬なんて聞いたことないよね、でもあの活躍ぶりはやっぱりそうなのかな・・・。」 謎の犬のおかげで思いがけない体験をした由布岳。「元気で暮らしておくれ〜」と祈りながら、船内ではいつの間にか眠ってしまった。


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